
この記事のポイント
- 近赤外線(IR)はUVよりも深く肌に届き、熱エネルギーとして蓄積することで光老化に関与するとされています。
- UVケアだけでは近赤外線は防げない。ヒートプロテクトはUVとは別の視点でのケアアプローチです。
- 日常生活の「熱環境」(日差し・調理・PC熱など)を意識し、クールダウンと抗酸化ケアを組み合わせることが現時点での現実的な対策です。
「日焼け止めさえ塗れば、肌への光ダメージは防げる」——そう思っていませんか。 実は、太陽光には紫外線(UV)以外にも肌へ影響しうる光があります。その一つが近赤外線(IR:Infrared Radiation)です。 この記事では、近赤外線が肌にどう作用するのか、UVとの違い、そして「ヒートプロテクト」という考え方まで、現時点での研究知見をもとに整理します。
近赤外線(IR)とは?紫外線との違いは何か
紫外線(UV)と近赤外線(IR)の違いは、波長の長さに応じて肌に届く深さが異なる点にあります。太陽光は、波長の短い順に紫外線(UV)→可視光線→赤外線(IR)と並んでいます。
| 種類 | 波長の目安 | 肌への主な到達部位 | 主な影響(研究ベース) |
|---|---|---|---|
| UVB | 280〜315 nm | 表皮(肌の表面層) | 日焼け(赤くなる)、日やけによるシミ・ソバカスを引き起こしやすい |
| UVA | 315〜400 nm | 表皮〜真皮上層 | 即時的な黒化、光老化(シワ・たるみ)に関与するとされる |
| 近赤外線(IR-A) | 760〜1,400 nm | 真皮〜皮下組織 | 熱エネルギーとして深部に届き、酸化ストレスを高める可能性 |
ポイントは「波長の長さ=到達する深さ」に対応している点です。
- UVBは波長が短い(280〜315 nm)→ 屋外でガラスを透過しにくく、表皮で止まりやすい → 浴びた翌日に赤く、やがて黒くなる、あの反応が起きやすい。
- UVAは波長が長め(315〜400 nm)→ 曇りでも窓越しでも届く → 表皮より深い真皮上層まで届きやすく、すぐには赤くならないので気づきにくいが、年月をかけて光老化(シワ・たるみ感)に関与するとされる。
- 近赤外線IR-Aは波長がさらに長い(760〜1,400 nm)→ UVよりさらに深く、真皮から皮下組織にまで達すると考えられている → ただし「熱」として感じるため、「光ダメージ」よりも「熱ダメージ」というイメージが近い。
近赤外線は「見えない熱」として届く
UVは肌に当たっても、温度として感じにくいのが特徴です。一方、近赤外線は熱エネルギーを運んでいるため、強い日差しのもとで「肌がじんわり熱い」と感じるあの感覚の正体の一部が近赤外線と言えます。また、夏の屋外だけでなく、次のような日常場面でも近赤外線は発生します。
- 太陽光(最大の発生源)
- 調理中のガスコンロや電子レンジの近く
- PCやスマートフォンのディスプレイ背面
- サウナや浴室の高温環境
- 暖房器具(ストーブ・ヒーターの熱線)
「外出時だけのケア」ではなく、室内の熱環境にも目を向けることが、ヒートプロテクトの出発点です。
近赤外線は肌にどんなダメージを与えるのか
近赤外線が肌に届くと、主に熱エネルギーによる酸化ストレスの増加が起きるとされています。
酸化ストレスとは何か
酸化ストレスとは、体内で「活性酸素(フリーラジカル)」と呼ばれる不安定な分子が過剰に生じた状態のことです。活性酸素は細胞を守るはたらきも持つ一方、増えすぎると細胞や組織に影響を与えやすくなることが知られています。
近赤外線が肌深部に届くと、この活性酸素の産生が促されると考えられており、それがコラーゲンやエラスチン(肌の張りや弾力に関わるタンパク質)に関わる酵素の活性変化を介して、皮膚の構造に影響しうる可能性が研究されています。
ただし、日常生活レベルの近赤外線曝露がどの程度の影響をもたらすかは、まだ研究が進行中の領域です。「絶対に老ける」という断定的な事実ではなく、リスク要因の一つとして理解するのが適切です。
UVと近赤外線の「複合的な影響」
近赤外線単独の影響を研究する際の難しさは、太陽光は常にUVと近赤外線が同時に届いている点にあります。一部の研究では、UVと近赤外線を同時に浴びた場合、UVのみを浴びた場合よりも皮膚の酸化ストレスが増大する可能性が指摘されており、光ダメージを「UV対策だけで完結させる」ことへの問い直しにもつながっています。
UVケアと「ヒートプロテクト」は何が違うのか
UV防御剤は近赤外線をカバーしない
SPF・PA値は、あくまでUVB・UVAに対する防御指標です。
| 指標 | 対象の光 | 測定の意味 |
|---|---|---|
| SPF(Sun Protection Factor) | UVB(280〜315 nm) | 日焼けが起きるまでの時間を素肌と比べた倍率 |
| PA(Protection grade of UVA) | UVA(315〜400 nm) | UVAによる即時黒化を抑える効果のグレード |
| IR対策表記(各社独自) | 近赤外線(760 nm〜) | 現状、統一された国際規格指標はない |
つまり、SPF50・PA++++の日焼け止めを完璧に塗っていても、近赤外線は通過することになります。ここに「ヒートプロテクト」という視点が生まれます。
ヒートプロテクトの考え方
ヒートプロテクトとは、広義では「熱や近赤外線による肌へのストレスを軽減するためのケアアプローチ」を指します。具体的には以下の方向性が考えられます。
- 物理的な遮熱: 日傘・UVカット素材の衣類・帽子などで皮膚表面に届く熱量を物理的に減らす。これはUV対策とほぼ共通。
- クールダウン: 外出後の肌温度を早めに下げることで、熱による酸化ストレスの蓄積を抑える。ミストや冷却シートの活用が一般的。
- 抗酸化ケア: 近赤外線が誘発する活性酸素に対し、スキンケアや食事から抗酸化成分を補う。ビタミンC・E、ナイアシンアミドなどが研究対象となっている。
- 近赤外線対応スキンケア成分: 一部の製品には、近赤外線による酸化ストレスの抑制を目的とした成分(例:特定のポリフェノール、フラーレンなど)が配合されていますが、効果・効能の表現は各国の化粧品規制に準じます(日本では化粧品の効能範囲内での表現が前提)。
日常生活でどう対策する?近赤外線ケアの実際
屋外での基本は「物理的に遮る」こと
近赤外線対策のもっとも確実なアプローチは、物理的に遮熱することです。
- 日傘: 近赤外線カット率を公表している製品を選ぶと参考になります。一般的なUVカット日傘でも熱線をある程度遮断しますが、遮熱性の高い素材(アルミコーティング等)はより効果的とされています。
- 帽子・長袖: 肌露出を減らすことが、UV・近赤外線両方に対して最も物理的な防御になります。
スキンケアでの抗酸化アプローチ
現時点で、「近赤外線を完全にカットする塗るもの」は一般的な化粧品として確立していません。ただし、近赤外線によって誘発される酸化ストレスへのアプローチとして、抗酸化成分の活用は研究知見の多い選択肢です。そのため、主な抗酸化成分と特徴を整理します。
| 成分 | 特徴 |
|---|---|
| ビタミンC(アスコルビン酸) | 活性酸素を抑える代表的成分。光で分解しやすいため製剤の工夫が必要 |
| ビタミンE(トコフェロール) | 脂溶性。細胞膜の酸化を抑える働きが研究されている |
| ナイアシンアミド | 肌のバリア機能サポート・抗酸化への複合的な関与が注目されている |
| レスベラトロール | ポリフェノールの一種。抗酸化性が高いとされるが化粧品配合での評価は蓄積中 |
| フラーレン | 活性酸素を強力に消去するとされる炭素分子 |
注意: これらの成分が「近赤外線ダメージを防ぐ」「光老化を防止する」と製品に表示できるわけではありません。化粧品として許可されている効能効果の範囲内で使用するものです。
クールダウン習慣を取り入れる
アウトドア後の「熱を持った肌」へのケアも、ヒートプロテクトの一環として見直す価値があります。
- 帰宅後すぐに冷たい水で洗顔し、肌の温度を下げる
- ミスト化粧水でクールダウンし、そのままスキンケアへ移行する
- サウナ・高温浴後もすみやかに肌温度を適温に戻す
「熱を受けた時間を短くする」という発想が、ヒートプロテクトの核心のひとつです。
近赤外線ケアが特に意識されるシーン
近赤外線のリスクは、「強い紫外線の日だけ」ではありません。以下のシーンでは特に意識する価値があります。
- 山・高原・雪山: 標高が高いほどUVも近赤外線も強くなります。反射率も高い。
- 長時間の運転: フロントガラスはUVBをある程度カットしますが、近赤外線は通過しやすい。
- 調理中(特にガス火): 顔に近い熱源から継続的に近赤外線を受けやすい。
- サウナ・岩盤浴: 高温環境では近赤外線への暴露と体温上昇が重なる。
- 春〜秋の屋外スポーツ: 紫外線が話題になりがちですが、熱線も同時に受けています。
研究・参考情報
近赤外線と皮膚への影響
近赤外線(特にIR-A領域:760〜1,400 nm)が皮膚の真皮層まで到達し、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP:コラーゲンを分解する酵素)の活性を高める可能性を示す研究が報告されています(Schroeder ほか, 2008)。ただし、これは主に試験管内・動物実験・ヒト皮膚模型を用いた実験研究であり、実際の日常生活における暴露量での影響程度は、現時点では確立していません。
「UV+近赤外線」の複合曝露研究
一部の研究では、紫外線・可視光・近赤外線を含む太陽光の複合的な照射が、紫外線単独の場合よりも皮膚細胞の酸化ダメージ指標を高める可能性を示す知見があります(Hudson ほか, 2020)。この「複合的な光ダメージ」という観点は、近年スキンケア研究者の間で注目が高まっているテーマです。
ヒートショックプロテイン(HSP)との関係
近赤外線を含む熱刺激を受けると、細胞は「ヒートショックプロテイン(HSP)」と呼ばれる保護タンパク質を産生するとされています。これは細胞がストレスから自分を守ろうとする反応ですが、過剰な熱刺激が繰り返されると保護機能が追いつかなくなる可能性も指摘されています。
抗酸化成分の近赤外線研究
ビタミンC・E、フラーレン、レスベラトロールなどの抗酸化成分が、近赤外線照射後の酸化ストレスマーカーを抑制する可能性を示す報告が複数存在しますが、化粧品への配合量・剤型・吸収性を踏まえたヒト臨床での有効性は、今後のさらなる研究が必要な段階です。
まとめ
- 近赤外線(IR-A)は波長760〜1,400 nmの光で、UVより深く(真皮〜皮下組織まで)届きうる。
- 「熱」として感じるため気づきやすいが、日常的な曝露が積み重なる可能性がある。
- SPF・PA値はUV(UVB・UVA)に対する指標であり、近赤外線は対象外。
- ヒートプロテクトの基本は「物理的に遮熱する」「クールダウンを習慣にする」「抗酸化ケアを加える」の3方向。
- 近赤外線の肌影響は研究が進行中の領域。断定的な情報に惑わされず、現時点のエビデンスを参考にすることが大切。
UVケアを丁寧に続けながら、「熱」という別の光ダメージにも少しずつ意識を広げていく——それが、これからのスキンケアの新しい視点になりつつあります。
監修・確認
ORIA Journal 編集部 編集部
ORIA Journalは、紫外線とスキンケアに関する誠実で分かりやすい情報を届ける編集部です。記事は編集部が作成し、薬機法・景品表示法の観点から表現上のリスクを確認したうえで公開しています。
よくある質問
近赤外線対策はUVケアと同じ製品でできますか?
現在のSPF・PA規格はUVB・UVAを対象としており、近赤外線(IR)は含まれません。近赤外線のケアには、物理的な遮熱(日傘・帽子)やクールダウン、抗酸化成分の活用などをUVケアと組み合わせるアプローチが現実的です。
曇りの日や室内でも近赤外線は届きますか?
近赤外線は可視光に近い波長帯を持つため、曇りの日でも一定量が地表に届きます。また室内でも調理器具・暖房器具・PCなど身近な熱源から発生します。屋外だけでなく、室内環境も意識することがポイントです。
ヒートプロテクト成分はどこで確認できますか?
「ヒートプロテクト」は現在、統一された規格や国際的な認定制度がありません。製品の成分表示を確認し、ビタミンC・E、ナイアシンアミドなどの抗酸化成分が含まれているかを参考にする方法が一般的です。
近赤外線はシワやたるみの原因になりますか?
近赤外線が酸化ストレスを高め、コラーゲン関連酵素の活性に影響する可能性を示す研究はありますが、日常生活レベルの曝露量での影響は現時点で確立していません。リスク要因の一つとして理解し、UVケアと組み合わせて対策するのが現実的です。
日焼け止めを塗っていれば近赤外線は大丈夫ですか?
日焼け止めのSPF・PA値はUVに対する指標です。近赤外線の防御には対応していません。日焼け止めは引き続きUV対策として重要ですが、近赤外線には別途、遮熱グッズや抗酸化ケアを加えることを検討してみてください。
参考文献
- 日本皮膚科学会(公式ウェブサイト)https://www.dermatol.or.jp/
- Schroeder P, et al. 「Infrared radiation-induced matrix metalloproteinase in human skin: implications for protection」 Journal of Investigative Dermatology, 2008. PubMed
- Krutmann J, et al. 「The skin aging exposome」 Journal of Dermatological Science, 2017. PubMed
- 環境省「紫外線環境保健マニュアル 2008」(https://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果・効能を保証したり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。肌の状態やトラブルにお悩みの場合は、皮膚科などの専門医にご相談ください。