この記事のポイント
- クリティカルウェーブレングス(λc)は、紫外線の吸収曲線の面積の90%が収まる波長で、防御の「広さ」を示す指標です。
- SPFはUVBの、PAはUVAの「強さ(どれだけ防ぐか)」を示すのに対し、λcは「どの波長まで幅広く防ぐか」を示す別の軸です。
- 海外のBroad Spectrum表示やEUの基準では、λcが370nm以上であることが目安のひとつとされています。
日やけ止めを選ぶとき、SPFやPAの数字が大きいほど「よく防げる」と思っていませんか。ところが数字が高くても、防げる紫外線の「幅」が狭ければ、波長の長いUVAの一部が素通りしてしまうことがあります。実は、防御の強さと防御の広さは別のものさしで測られています。この記事では、その「広さ」を担当するクリティカルウェーブレングスという指標を、数値と仕組みからやさしく整理します。
クリティカルウェーブレングスとは?
クリティカルウェーブレングス(λc、日本語では臨界波長)は、日やけ止めが紫外線をどの波長まで幅広く防ぐかを示す指標です。名前だけ見ると難しそうですが、考え方はシンプルです。
紫外線は波長のちがいで種類が分かれます。肌に届くのは、波長の短いUVB(およそ290〜320nm)と、波長の長いUVA(およそ320〜400nm)です。UVAはさらに、320〜340nmあたりのUVA2と、340〜400nmの長波長のUVA1に分けて語られることもあります。数字が大きいほど波長が長く、UVAは肌の奥(角質層より深い層)にまで届きやすいとされています。地表に届く紫外線のうち、量としてはUVAが大部分を占めるとされ、窓ガラスや雲もある程度は通り抜けます。だからこそ、UVAをどこまで防げるかは日常のケアで見逃せないテーマです。
ここで、日やけ止めを塗った膜がどの波長の光をどれだけ吸収するかを測ると、横軸に波長・縦軸に吸収の強さをとった曲線が描けます。クリティカルウェーブレングスは、この曲線の下側の面積を紫外線の下限にあたる290nmから積み上げていき、全体の90%に達したところの波長のことです。吸収が長い波長側までしっかり伸びている製品ほど、λcの数値は大きくなります。逆にUVBを主に防ぐ製品は、面積が短い波長側に偏るため、λcは320nmを下回る傾向があります。
この評価法は英国の研究者ディフェイが1994年に提案したもので、人や動物の肌を使わずに測れるin vitro(試験管内)の方法として広まりました。ポイントは、吸収が「どれだけ強いか」ではなく「どこまで届いているか」を、たった一つの波長の値に置きかえて表せることです。
なぜ「強さ」と「広さ」は別の指標なの?
結論からいうと、SPFやPAは「どれだけ防ぐか(強さ)」を、クリティカルウェーブレングスは「どの波長まで幅広く防ぐか(広さ)」を示す、別の軸だからです。ここが多くの人が見落としがちなポイントです。
SPFは主にUVBを防ぐ力を、日やけによる赤みが起こる量がどれだけ増えるかで測った数値です。たとえばSPF50は、赤みが出はじめるまでの紫外線量をおよそ50倍に引き延ばす、という考え方にもとづきます。一方PAは、UVAを浴びた直後にあらわれる肌の黒み(PPD)を目安に、UVAを防ぐ強さを「+」の数で段階表示したものです。どちらも「量」を示す指標で、UVBやUVAをどれだけしっかり抑えるかを表しています。
ところが、SPFが高くても、それはUVB側の力が強いという意味にすぎません。UVAの中でも波長の長い領域まで守れているかどうかは、SPFやPAの数字だけでは分からないのです。ここに落とし穴があります。吸収曲線が短い波長側でとても高くそびえていれば面積はかせげるので、UVBに偏った製品でもSPFの数値は伸びます。けれど、その山が長波長側で急に低くなっていれば、UVA1の一部は守りきれていないかもしれません。そこを見抜くために、面積の広がりを一つの波長で表すクリティカルウェーブレングスが役立ちます。
| 指標 | 何を測る | 主な対象 | 軸のちがい |
|---|---|---|---|
| SPF | 赤みが増える量を抑える力 | UVB中心 | 強さ(量) |
| PA | 黒み(PPD)を抑える力 | UVA | 強さ(量) |
| クリティカルウェーブレングス | 吸収曲線の90%が収まる波長 | UVB〜UVA全域 | 広さ(幅) |
この表のように、SPFとPAが縦方向の「強さ」を測るのに対し、λcは横方向の「広さ」を測ります。両方をあわせて見ると、日やけ止めの守備範囲が立体的に見えてきます。
「Broad Spectrum」表示とクリティカルウェーブレングスの関係は?
海外でよく見るBroad Spectrum(ブロードスペクトラム=広域)という表示は、まさにこのクリティカルウェーブレングスを基準にしています。両者は裏表の関係だと考えると分かりやすいです。
アメリカの制度では、λcが370nm以上であることが、Broad Spectrumを名乗るための試験基準のひとつとされています。ヨーロッパの目安でも考え方は共通で、UVAを防ぐ力がSPFの1/3以上あること、あわせてλcが370nm以上であることが求められています。数字の裏返しになりますが、SPF30の製品なら、UVAを防ぐ力もおよそ10相当以上あることが期待される、という関係です。日本のPA表示とは制度が異なりますが、「UVAまで幅広く守れているか」を確かめようとする点は同じ方向を向いています。
なぜ370nmという線引きなのでしょうか。UVAの範囲は400nm近くまで続くため、吸収が370nmまで伸びていれば、UVA領域の相当な幅をカバーできていると判断できるからです。ここでも「数字が大きいほど強力」ではなく、「幅が足りているか」を見ている点が、SPFやPAとの発想のちがいです。海外製品のパッケージにBroad Spectrumとあれば、その裏側でλcが基準を満たしていると読み取れます。
数値をどう読めばいい?
まず押さえたいのは、クリティカルウェーブレングスは「強さのランキング」ではないということです。SPF50どうしの製品でも、λcには差が出ることがあります。
たとえばSPFが同じ2本でも、片方はλcが372nmまで伸び、もう片方は362nmあたりで頭打ちになる、ということが起こりえます。この場合、UVBを防ぐ強さは近くても、長波長のUVAまでの広さには差があると読めます。前者はBroad Spectrumの基準を満たし、後者は満たさない、という分かれ方になります。名前や見た目のSPF値だけでは、この差はまず気づけません。だからこそ、SPF・PAという「強さ」の指標と、λcやBroad Spectrum表示という「広さ」の情報を、セットで確かめるのがおすすめです。
もうひとつ見落としやすいのが、塗る量の問題です。どんなに指標がそろっていても、日やけ止めは塗る量が少なければ数値どおりの働きは期待しにくくなります。試験は肌1平方センチあたり一定量(一般に2mg前後)を塗って測られますが、実際の使用量はその半分ほどにとどまることが多いと報告されています。膜が薄くなると、SPFだけでなくλcが示す広さも実質的にやせてしまう可能性があります。汗や皮脂、こすれで膜は少しずつ崩れるため、2〜3時間ごとを目安に塗り直すことが、幅広い防御を保つうえで大切とされています。
さらにもう一歩踏み込むと、同じλcの数値でも守り方が同じとは限りません。90%という面積の区切りは便利ですが、残り10%がどの波長に散らばっているかまでは教えてくれないからです。長波長のUVA1にわずかな谷があっても、面積の帳尻が合えば数値は基準を満たしてしまいます。この弱点を補うために、後述する「スペクトル均一性」のように、吸収のむらそのものを見ようとする考え方も提案されています。λcは万能の一つの数字ではなく、強さと広さを見たうえで、さらに均一さまで気にかけると理解が深まる、という多層のものさしなのです。
研究・参考情報
- クリティカルウェーブレングスは、吸収曲線の面積の90%が収まる波長として、ディフェイが1994年に提案した評価法にもとづきます。人や動物を使わずin vitroで測れる点が特徴です。
- 同じ研究者は2009年に、UVAをより均等に防げているかを見る「スペクトル均一性」という別の指標も提案しています。λcだけでは表しきれない吸収の偏りを補う考え方で、面積が同じでも守り方に差が出ることを示唆しています。
- 370nm以上という基準は、アメリカのBroad Spectrum試験やヨーロッパの目安で用いられており、UVA領域を幅広くカバーできているかの判断に使われています。いずれも人の肌での日やけを保証する数値ではなく、あくまで防御の幅を客観的に比べるためのものさしとして位置づけられています。
まとめ
- クリティカルウェーブレングス(λc)は、紫外線の吸収曲線の面積の90%が収まる波長で、防御の「広さ」を示します。
- SPF(UVBの強さ)やPA(UVAの強さ)は「どれだけ防ぐか」、λcは「どの波長まで幅広く防ぐか」という別の軸の指標です。
- 海外のBroad Spectrum表示やEUの目安では、λcが370nm以上であることが基準のひとつとされています。
- 「強さ」の指標と「広さ」の情報をセットで確かめ、じゅうぶんな量を塗り、2〜3時間ごとの塗り直しを心がけると、UVAまで含めた守りを保ちやすくなります。
監修・確認
ORIA Journal 編集部 編集部
ORIA Journalは、紫外線とスキンケアに関する誠実で分かりやすい情報を届ける編集部です。記事は編集部が作成し、薬機法・景品表示法の観点から表現上のリスクを確認したうえで公開しています。
よくある質問
クリティカルウェーブレングスとSPFはどう違いますか?
SPFは主にUVBを防ぐ「強さ(どれだけ防ぐか)」を示す指標です。一方クリティカルウェーブレングスは、UVBからUVAまでのうち、どの波長まで幅広く防げているかという「広さ」を示す別の軸の指標です。数字の大小ではなく、守備範囲の幅を表しています。
数値が大きいほど紫外線防御が強い、という意味ですか?
いいえ。クリティカルウェーブレングスは防御の「強さ」ではなく「広さ」を示す指標です。数値が大きいほど、長い波長のUVA側まで吸収が伸びている(幅広く防げている)ことを意味します。強さはSPFやPAで、広さはこの指標で、それぞれ確かめるのがおすすめです。
なぜ370nmが基準になっているのですか?
UVAの範囲はおよそ400nm近くまで続きます。吸収曲線が370nmまで伸びていれば、UVA領域の相当な幅をカバーできていると判断できるため、アメリカのBroad Spectrum試験やヨーロッパの目安で370nm以上が基準のひとつとされています。
海外のBroad Spectrum表示と日本のPA表示は同じものですか?
制度は異なります。Broad Spectrumはクリティカルウェーブレングスが370nm以上かどうかを基準にした「広さ」寄りの表示で、日本のPAはUVAを防ぐ「強さ」を段階で示す表示です。目的は近いものの、測り方と示す軸が違うため、そのまま同じ数値には対応しません。
指標が良ければ塗り直さなくても大丈夫ですか?
いいえ。試験は一定量を塗った条件で測られており、実際の使用量が少なかったり、汗や皮脂、こすれで膜が崩れたりすると、数値どおりの働きは期待しにくくなります。じゅうぶんな量を塗り、2〜3時間ごとを目安に塗り直すことが大切とされています。
参考文献
- Diffey BL. "A method for broad spectrum classification of sunscreens." International Journal of Cosmetic Science. 1994;16(2):47-52. DOI: 10.1111/j.1467-2494.1994.tb00082.x — https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1467-2494.1994.tb00082.x
- Diffey BL. "Spectral uniformity: a new index of broad spectrum (UVA) protection." International Journal of Cosmetic Science. 2009;31(1):63-68. PMID: 19250495 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19250495/
- Commission Recommendation of 22 September 2006 on the efficacy of sunscreen products and the claims made relating thereto (2006/647/EC). Official Journal of the European Union. — https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32006H0647
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果・効能を保証したり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。肌の状態やトラブルにお悩みの場合は、皮膚科などの専門医にご相談ください。