この記事のポイント
- フラーレンは炭素原子が球状につながった分子で、活性酸素を吸着するようにはたらくことから「ラジカルスポンジ」と呼ばれる、抗酸化で知られる成分です。
- ビタミンCなど自ら酸化して使い切られる成分と違い、フラーレンは構造を保ったまま繰り返しはたらくと語られる持続性が特徴とされています。
- 光や熱に比較的強い一方で水にも油にも溶けにくく、スクワランなどに溶かし込む処方の工夫が必要な成分です。
「フラーレンって、なんだか難しそうな名前だし、自分には縁がなさそう」——そんな印象を持たれがちな成分です。実際には、フラーレンはサッカーボールのような形をした炭素の分子で、抗酸化の分野で知られ、化粧品にも配合されてきたなじみのある存在です。この記事では、フラーレンがどんな成分かを構造からたどり、「ラジカルスポンジ」と呼ばれる理由や、光・熱に強いという特徴、配合するうえでの注意点までを、研究を手がかりにやさしく整理します。
フラーレンとは? 炭素からできた球状の分子
フラーレンは、炭素原子だけが球状につながってできた分子の総称です。もっとも代表的なのが、60個の炭素が集まったC60(シーろくじゅう)で、その形がサッカーボールにそっくりなことから「バッキーボール」という愛称でも呼ばれます。
炭素というと、鉛筆の芯(黒鉛)やダイヤモンドを思い浮かべるかもしれません。フラーレンは、それらと同じ炭素でありながら並び方が違う、第三の炭素のかたちとして1985年に見つかり、発見者はのちにノーベル賞を受けました。直径はおよそ0.7ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリ)という、とても小さな球です。
化粧品の世界では2000年代の後半から使われはじめ、成分表示では「フラーレン」と記載されます。水になじみやすく加工したタイプが日本で製品化され、その働きから「ラジカルスポンジ」という名でも知られるようになりました。名前の響きから最先端の医薬品のように感じられるかもしれませんが、あくまで化粧品に配合される成分の一つで、医薬部外品の承認を受けた有効成分ではありません。まずは、この球状の分子がなぜ注目されるのか、その働き方から見ていきましょう。
なぜ「ラジカルスポンジ」と呼ばれるの?
フラーレンが「ラジカルスポンジ」と呼ばれるのは、活性酸素(フリーラジカル)を、まるでスポンジが水を吸うように引き受けるようにはたらくとされるからです。
肌は紫外線やストレスなどにさらされると、活性酸素と呼ばれる不安定な物質を生みやすくなります。これが増えすぎると肌の負担につながると考えられており、それをやわらげる役割が「抗酸化」です。フラーレンの表面は電子を受け取りやすい構造をしていて、たくさんのラジカルを次々に引き受けられると説明されています。だからこそ「スポンジ」にたとえられるわけです。
ここで、名前や一般論だけでは気づきにくい新しい着眼があります。それは「使われ方の違い」です。ビタミンCをはじめ、多くの抗酸化成分は活性酸素と出会うと自分自身が酸化して“消費されていく”——いわば一回きりの働き手です。一方でフラーレンは、ラジカルを受け取っても自身の骨格が壊れにくく、構造を保ったまま繰り返しはたらくと語られます。実際に、フラーレンを組み込んだ処方で紫外線を当てたあとも活性酸素を消す働きが続いたとする研究も報告されています。「一度で使い切る」のか「繰り返し受け止める」のか——この持続性という視点が、フラーレンならではの語られ方です。
| 見る観点 | フラーレン | 一般的なビタミンC(抗酸化として) |
|---|---|---|
| はたらき方 | ラジカルを吸着するように引き受けるとされる | 自ら酸化して打ち消す |
| 使われ方 | 構造を保ち繰り返しはたらくと語られる | 反応すると消費されやすい |
| 光・熱への強さ | 比較的安定とされる | 変化しやすく扱いに工夫が要る |
| 配合のしやすさ | 溶けにくく処方に工夫が必要 | 誘導体など選択肢が多い |
ただし、これらはあくまで研究や実験で調べられている性質であり、化粧品を使えば必ずこう働く、という保証ではありません。次に、肌の上で何が期待されているのかを整理します。
フラーレンは肌の上で何が期待されているの?
端的には、紫外線などで増える活性酸素の影響をやわらげる働きが、研究の場で調べられてきました。
皮膚の細胞を使った実験では、紫外線を当てると細胞の元気さ(生存率)が下がるところ、フラーレンを含む処方をあらかじめ加えておくとそのダメージがやわらいだと報告されています。また、ヒトを対象にした8週間の試験では、フラーレンをスクワランに溶かしたクリームが、比較用のクリームよりも肌のうるおいやキメの面で差が見られたとする報告もあります。
こうした知見は興味深いものですが、読み解くときには落ち着いた視点が大切です。研究は特定の条件・処方・濃度で行われたものであり、そのまま「肌が若返る」「シミが消える」といった話にはつながりません。化粧品としてのフラーレンがはたらきかける範囲は角質層までで、期待される役割は「肌をすこやかに保つのを助ける」といった一般的なものと捉えるのが実際に近いといえます。研究では「〜と報告されています」という距離感で受け止めるのがちょうどよいでしょう。
配合や安定性で、気をつけたいことは?
フラーレンを扱ううえでの大きなテーマは、「溶けにくさ」と「安定性」の二つです。ここが、実は見落とされやすいポイントです。
フラーレンは炭素だけでできているため、水にも油にもとても溶けにくいという性質があります。そのため化粧品では、そのまま混ぜるのではなく、スクワランに溶かし込んだり、水になじむよう加工したりといった処方の工夫がされます。ある研究では、スクワランにおよそ278ppm(百万分の278)という微量を安定して溶かし込んだ例が報告されており、配合される量はごくわずかであることがわかります。フラーレン自体はうすい茶色をしているため、処方によっては製品の色みにも影響します。
一方で、うれしい特徴もあります。多くの抗酸化成分が光や熱で変化しやすいのに対し、フラーレンは光や熱に比較的強いとされ、この安定性は「製品として長く品質を保ちやすい」という利点につながると語られます。ビタミンCのように酸化を気にして早めに使い切らなければ、という心配が比較的少ない、という見方です。ただし安定性は処方全体で決まるものなので、実際の持ちは製品ごとに異なります。保管は直射日光や高温を避け、パッケージに書かれた使用の目安を守るのが安心です。
相性や使い方で意識したいことは?
フラーレンは、ほかの抗酸化成分やうるおい成分と組み合わせて配合されることが多い成分です。単独で何かを完結させるというより、処方全体の一員として肌をすこやかに保つのを助けるイメージで捉えるとよいでしょう。
使ううえでは、いくつか押さえておきたい点があります。
- UVケアの代わりにはならない:抗酸化で知られる成分ですが、紫外線そのものを防ぐ日やけ止めとは役割が別です。日中は日やけ止めや日傘・帽子でのUVケアを、これまでどおり続けましょう。
- 肌に合うかは個人差がある:抗酸化で知られる成分でも、すべての人に刺激がないとは言い切れません。心配なときは腕の内側などでパッチテストをしてから取り入れると安心です。
- 量よりも続けやすさ:微量でも配合されるのがふつうの成分です。特別に多く塗れば効くというものではないので、無理なく続けられる使い方を選びましょう。
赤みやかゆみなど気になる症状が続くときは、自己判断で使い続けず、皮膚科への相談も選択肢に入れてください。相性や感じ方には個人差があり、そこは正直に受け止めておきたいところです。
研究・参考情報
フラーレンの抗酸化に関する働きは、皮膚科学やナノ材料の分野で研究が重ねられてきました。皮膚の細胞(ケラチノサイト)を用いた実験では、紫外線によって生じる活性酸素をフラーレン入りの処方が消す働きを示し、その働きが紫外線を当てたあとも持続したと報告されています。また、フラーレンをスクワランに溶かしたクリームを用いた8週間のヒト試験では、比較用クリームとの差が観察されたとする報告もあります。いずれも特定の処方・条件下での知見であり、化粧品の効果を保証するものではありませんが、「繰り返しはたらく持続性」というフラーレンの語られ方を裏づける手がかりになっています。
まとめ
- フラーレンは炭素が球状につながった分子(代表はC60)で、抗酸化で知られる化粧品成分です。医薬部外品の有効成分ではありません。
- 活性酸素を吸着するように引き受けることから「ラジカルスポンジ」と呼ばれます。
- ビタミンCなど自ら酸化して使い切られる成分と違い、構造を保って繰り返しはたらくと語られる持続性が特徴とされています。
- 光や熱に比較的強い一方、水にも油にも溶けにくく、スクワランに溶かすなどの処方の工夫が必要です。配合量はごく微量です。
- UVケアの代わりにはならず、日中の日やけ止めは別途必要です。合うかは個人差があるので、パッチテストを添え、気になる症状が続くときは皮膚科に相談しましょう。
監修・確認
ORIA Journal 編集部 編集部
ORIA Journalは、紫外線とスキンケアに関する誠実で分かりやすい情報を届ける編集部です。記事は編集部が作成し、薬機法・景品表示法の観点から表現上のリスクを確認したうえで公開しています。
よくある質問
フラーレンとはどんな成分ですか?
炭素原子だけが球状につながってできた分子で、代表的なものは60個の炭素からなるC60です。抗酸化の分野で知られ、化粧品にも配合されてきました。活性酸素を吸着するようにはたらくとされることから「ラジカルスポンジ」とも呼ばれます。あくまで化粧品成分の一つで、医薬部外品の承認を受けた有効成分ではありません。
ビタミンCと何が違うのですか?
はたらき方の考え方が異なると語られます。ビタミンCなど多くの抗酸化成分は活性酸素と反応すると自ら酸化して消費されていくのに対し、フラーレンは骨格が壊れにくく、構造を保ったまま繰り返しはたらくとされます。また光や熱に比較的強いとされる点も、扱いに工夫が要るビタミンCとの違いとして挙げられます。ただしどちらが優れているという単純な話ではなく、役割や処方によって使い分けられます。
フラーレンは肌のシミやしわに効きますか?
化粧品としてのフラーレンは、シミが消える・しわが治るといった効果をうたえる成分ではありません。研究の場では紫外線による活性酸素の影響をやわらげる働きなどが調べられていますが、それは特定の条件下での知見であり、効果を保証するものではありません。はたらきかける範囲は角質層までで、肌をすこやかに保つのを助ける、という一般的な位置づけで捉えるのが実際に近いといえます。
フラーレンを使えば日やけ止めはいらなくなりますか?
いいえ、日やけ止めの代わりにはなりません。フラーレンは抗酸化で知られる成分ですが、紫外線そのものを防ぐ日やけ止めとは役割が別です。紫外線対策は引き続き、日やけ止めや日傘・帽子などで行いましょう。抗酸化ケアとUVケアは、切り離さずセットで考えるのがおすすめです。
敏感肌でも使えますか? 注意点はありますか?
抗酸化で知られる成分でも、すべての人に刺激がないとは言い切れず、合うかどうかには個人差があります。心配なときは、腕の内側などで事前にパッチテストをしてから取り入れると安心です。赤みやかゆみなど気になる症状が続く場合は、自己判断で使い続けず、皮膚科への相談も検討してください。
参考文献
- Kato S, Taira H, Aoshima H, Saitoh Y, Miwa N. "Clinical Evaluation of Fullerene-C60 Dissolved in Squalane for Anti-Wrinkle Cosmetics." J Nanosci Nanotechnol. 2010;10(10). PMID: 21137794 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21137794/
- "Fullerene-C60 incorporated in liposome exerts persistent hydroxyl radical-scavenging activity and cytoprotection in UVA/B-irradiated keratinocytes." J Nanosci Nanotechnol. 2011;11(5):3814-3823. PMID: 21780373 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21780373/
- "Defensive effects of fullerene-C60/liposome complex against UVA-induced intracellular reactive oxygen species generation and cell death in human skin keratinocytes HaCaT." J Photochem Photobiol B. 2010. PMID: 20060738 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20060738/
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果・効能を保証したり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。肌の状態やトラブルにお悩みの場合は、皮膚科などの専門医にご相談ください。