オクトクリレンとは?何を吸収する成分か、配合上限と安全性の評価まで

オクトクリレンは290〜360nmを吸収する紫外線吸収剤ですが、日焼け止めに入っている理由は防御力だけではありません。液体という性質、ほかの成分を光から守る役割、日本・EU・米国の配合上限、ベンゾフェノンをめぐる議論の現在地までを一次情報で整理します。

成分表で「オクトクリレン」という名前を見かけても、何をする成分なのかは名前から見当がつきませんよね。これは紫外線を吸収する成分のひとつです。実は自分が紫外線を受け止める働きよりも、ほかの成分を光から守る「相棒」としての役割のほうが大きいことが分かっています。

この記事では、この成分が何を吸収し、なぜこれほど多くの日焼け止めに入っているのかを整理します。あわせて、日本・EU・米国の配合上限や安全性の評価までを紹介します。

オクトクリレンとは、どんな成分ですか?

黄色みを帯びた、とろみのある液体の紫外線吸収剤です。国際的な表示名(INCI名)は Octocrylene、CAS番号は 6197-30-4。EUの安全性評価書では20℃で「黄色く澄んだ粘性のある液体」と記載され、分子量は 361.5 g/mol

水にはほとんど溶けず、20℃・pH6.2で 40µg/L、pHが7前後では0.1µg/L未満とされています。油にはよくなじむのに水とは混ざらないので、肌の上にできた膜が汗や水に触れても残りやすい、という性質につながります。

化粧品基準では長い化学名で載っている

日本の化粧品基準(平成12年9月29日 厚生省告示第331号)の別表第4には、この成分が収載されています。収載名は「2-シアノ-3,3-ジフェニルプロパ-2-エン酸2-エチルヘキシルエステル(別名オクトクリレン)」です。パッケージの成分表示では「オクトクリレン」と短く書かれます。

そのため、法令の一覧と見比べようとすると名前が違って戸惑うかもしれません。探すときは「別名」のほうを手がかりにしてください。

オクトクリレンは何を吸収するの?

おおよそ 290〜360nm の紫外線を吸収します。吸収がいちばん強いのは 307nm 付近と報告されています。

UVBと、UVAの短い側にまたがっている

紫外線は波長でUVB(およそ290〜320nm)とUVA(およそ320〜400nm)に分けられます。オクトクリレンの吸収域はUVBをほぼ覆い、そこからUVAの波長が短い側にも届きます。屋外で数時間過ごすと肌が赤くなるのは主にUVBの影響とされています。ちょうど「その場で実感しやすい紫外線」を担当する位置にいる成分です。

一方、窓ガラスを通り抜けて曇りの日にも届くとされるのがロングUVAです。UVAの長い側(ロングUVA、およそ340〜400nm)は吸収域の外になります。実際の処方でより長い波長を担当する成分と組み合わせられるのはそのためです。この成分が単独で紫外線の全域を引き受けているわけではありません。

なぜ多くの日焼け止めに入っているのですか?

自分が紫外線を吸収するためだけでなく、ほかの紫外線吸収剤の性能を保つために入っていることが多いからです。ここがこの成分のいちばん面白いところで、名前からはまず想像がつきません。

固体の成分を溶かす「溶媒」になる

紫外線吸収剤には、室温で結晶の固体になるものがあります。代表がアボベンゾン(表示名は t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)で、そのままでは処方に混ぜにくい成分です。オクトクリレンは液体の紫外線吸収剤なので、固体の成分を溶かす溶媒として働き、透明でなめらかな処方をつくりやすくします。自分も紫外線を吸収しながら溶媒も兼ねられるため、余分な油分を足さずに済むという利点もあります。

光のエネルギーの受け皿になる

紫外線を吸収した分子は、一瞬だけエネルギーの高い状態になります。この状態が長く続くほど分子は壊れやすくなります。研究では、オクトクリレンがそのエネルギーを受け取ることが報告されています(三重項エネルギー移動と呼ばれます)。

受け取ったエネルギーで、隣の成分を壊れにくい状態へ戻す働きです。エネルギーの逃がし先をつくる、というイメージです。

受け皿になれるのは、オクトクリレン自身が光を浴びても壊れにくいからです。吸収する力の強さではなく、壊れにくさと液体であることの組み合わせが、この成分が長く使われてきた理由だといえます。

日本・EU・米国では、どこまで配合できるの?

日本では化粧品100g中10gが上限です。国ごとに考え方が少し違うので、順に見ていきます。

日本:すべての化粧品で一律10g

化粧品基準の別表第4は、紫外線吸収剤を2つの区分に分けています。「すべての化粧品に配合の制限がある成分」と「化粧品の種類により配合の制限がある成分」です。オクトクリレンは前者にあります。洗い流すもの・洗い流さないもの・粘膜に使われるものといった区分を問わず、100g中10gが上限です。

成分名(化粧品基準の表記)100g中の最大配合量区分
2-シアノ-3,3-ジフェニルプロパ-2-エン酸2-エチルヘキシルエステル(オクトクリレン)10gすべての化粧品で一律
4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)10gすべての化粧品で一律
サリチル酸ホモメンチル10gすべての化粧品で一律
トリスビフェニルトリアジン10.0gすべての化粧品で一律
パラアミノ安息香酸及びそのエステル合計量として4.0gすべての化粧品で一律

EU:10%、ただし噴射剤スプレーとの併用は9%

EUの消費者安全科学委員会(SCCS)は、意見書を採択しました。採択日は2021年3月30〜31日、番号はSCCS/1627/21です。単独使用なら10%まで安全と結論づけています。日焼け止めクリーム・ポンプスプレー・フェイスクリーム・ハンドクリーム・口紅を併用する場合も10%まで。

ただし、噴射剤を使うスプレーについては、ほかの製品が10%を含む前提での併用時に9%を超えないことを条件としています。同じ成分でも、剤型によって体に入る量の見積もりが変わるためです。

米国:モノグラフの上限は10%、判断は保留中

米国では日焼け止めが一般用医薬品(OTC)として扱われます。連邦規則(21 CFR 352.10)でオクトクリレンは10%までと記載されています。一方でFDAは2021年9月27日に公示した提案指令を出しました。そこでは、酸化亜鉛と酸化チタンについては有効性・安全性が認められるとしています。

パラアミノ安息香酸とトロラミンサリチル酸は認めないとしました。そのうえで、オクトクリレンを含む12成分は追加のデータが必要として判断を保留しています。「危険と判断された」のではなく「判断に必要な資料が足りていない」という整理です。

安全性はどう評価されているの?

規制当局は現時点で、上限内での使用を安全と評価しています。ただし、いくつかの論点が公開の場で議論されてきました。

ベンゾフェノンをめぐる議論の現在地

2021年、EUと米国の市販日焼け止めを調べた研究がありました。その研究は、オクトクリレンの分解によってベンゾフェノンという物質が時間とともに増えると報告しました。同じ学術誌には、この報告に対するコメント(反論)も掲載されており、議論はひとつの結論に収束したわけではありません。

SCCSはこの研究を踏まえたうえで、ベンゾフェノンをオクトクリレンの有害な不純物であり分解生成物と位置づけました。そのうえで監視して微量にとどめるべきとしています。そのうえで、10%までの使用は安全という結論を出しています。

内分泌への影響について

SCCSは、一部の動物試験に内分泌への影響を示唆する所見があるとしています。ただし、安全性評価の出発点となる数値を導けるほど決定的ではないとしています。安全とも危険とも言い切らず、判断を保留した書き方になっている点が、この評価書の実際の姿です。

接触アレルギーと光アレルギー

接触によるアレルギーの報告はあります。SCCSは、この成分がどれだけ広く使われているかを考えると報告されている症例数はごくわずかだとしています。あわせて、この成分への光アレルギー(光が当たることで起こるアレルギー)についても指摘があります。

外用のケトプロフェンによる光アレルギーの既往と強く関連するという指摘です。心配な場合は、自分で判断せず皮膚科で相談するのが確実です。

選ぶとき・使うときに知っておきたいことは?

成分表での見つけ方と、塗り直しの考え方の2点を押さえておけば十分です。

成分表では組み合わせで読む

全成分表示には「オクトクリレン」と書かれます。近くに t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの名前があれば注目してください。溶媒兼ストッパーとして組み合わせた設計である可能性が高いと読めます。単体の量よりも、何と一緒に入っているかを見るほうが、この成分の場合は情報量があります。

安定化されていても、塗り直しは前提

組み合わせによって壊れにくくなるとはいえ、分解がゼロになるわけではありません。加えて、汗や皮脂、衣服との摩擦で膜そのものが減っていきます。2〜3時間ごとの塗り直しを目安にし、帽子や日傘、衣服による物理的な遮断も組み合わせてください。

研究・参考情報

光防御レビューが示す位置づけ

吸収域を290〜360nm、ピークを307nm付近とする記述があります。これは光防御のレビュー(Indian Journal of Dermatology, 2012)に基づきます。同レビューは、光で壊れやすいアボベンゾンの安定性を高める工夫にも触れています。オクトクリレンのような吸収剤が加えられる、という処方上の位置づけです。

処方内での相互作用を検証した研究

その仕組みを実験で扱った研究があります。Photochemical & Photobiological Sciences 誌に掲載された、2010年の研究です。三重項励起状態の生成と消光などを切り分けて調べています。フィルターどうしの相互作用が単なる波長の足し算ではないことを示しています。

規制側の一次情報

規制側の一次情報は、SCCS の意見書(SCCS/1627/21)です。あわせて、日本の化粧品基準(厚生省告示第331号)別表第4も一次情報です。さらに、米国の 21 CFR 352.10 と OTC モノグラフ M020 改正提案も一次情報です。同じ成分でも、地域によって上限の決め方と、判断が確定しているかが異なります。

まとめ

  • INCI名は Octocrylene、CAS番号は 6197-30-4。黄色みを帯びた粘性のある液体の紫外線吸収剤
  • 吸収域はおよそ290〜360nm、ピークは307nm付近。UVBをほぼ覆い、UVAの短い側にも届くが、ロングUVAは範囲外
  • 広く使われている理由は防御力だけではなく、固体の吸収剤を溶かす溶媒として、光のエネルギーの受け皿として働くため
  • 日本の化粧品基準では、化粧品の種類を問わず100g中10gが上限
  • EUのSCCSは単独使用で10%まで安全とし、噴射剤スプレーとの併用時のみ9%を上限とした
  • 米国はモノグラフ上の上限が10%だが、FDAは2021年の提案指令で追加データが必要として判断を保留
  • ベンゾフェノン生成の議論には報告と反論の双方があり、SCCSは監視して微量にとどめるべきとしたうえで10%までを安全とした
  • 安定化されていても分解や膜の減少はゼロにならないため、2〜3時間ごとの塗り直しと物理的な遮断を組み合わせる

監修・確認

ORIA Journal 編集部 編集部

ORIA Journalは、紫外線とスキンケアに関する誠実で分かりやすい情報を届ける編集部です。記事は編集部が作成し、薬機法・景品表示法の観点から表現上のリスクを確認したうえで公開しています。

よくある質問

オクトクリレンは何を吸収する成分ですか?

おおよそ290〜360nmの紫外線を吸収し、ピークは307nm付近と報告されています。UVB(およそ290〜320nm)をほぼ覆い、UVAのうち波長が短い側にも吸収域が届きます。UVAの長い側(ロングUVA)は守備範囲の外なので、ほかの成分と組み合わせて設計されるのが一般的です。

日本の日焼け止めには何%まで入れられますか?

化粧品基準(平成12年9月29日 厚生省告示第331号)の別表第4で、化粧品100g中10gが上限と定められています。オクトクリレンは「すべての化粧品に配合の制限がある成分」の区分にあります。洗い流すもの・洗い流さないものといった区分にかかわらず、同じ10gが上限です。

オクトクリレンから発生するというベンゾフェノンは心配ですか?

2021年に、市販の日焼け止めでベンゾフェノンが時間とともに増えると報告した研究があります。同じ学術誌には、その報告に対するコメントも掲載されています。EUの消費者安全科学委員会(SCCS)はこの点を「有害な不純物であり分解生成物」として監視しています。

そのうえで、微量にとどめるべきだとしています。そして、10%までの使用は安全と結論づけました。現時点の規制当局の評価はこの位置にあります。

オクトクリレンが入っていても塗り直しは必要ですか?

塗り直しは前提と考えてください。この成分は、組み合わせた紫外線吸収剤を光で壊れにくくする働きが知られています。ただし分解がゼロになるわけではなく、汗や摩擦で膜そのものも減っていきます。2〜3時間ごとを目安に、帽子や日傘なども組み合わせるのが現実的です。

参考文献

  • 厚生労働省「化粧品基準」(平成12年9月29日 厚生省告示第331号)別表第4|https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/keshouhin-standard.pdf
  • SCCS (Scientific Committee on Consumer Safety) Opinion on Octocrylene, SCCS/1627/21, adopted 30-31 March 2021|https://health.ec.europa.eu/document/download/2928185b-f8b7-474e-937a-052a90a90970_en
  • Lhiaubet-Vallet V, et al. Filter-filter interactions. Photostabilization, triplet quenching and reactivity with singlet oxygen. Photochem Photobiol Sci. 2010;9(4):552-558|https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20354650/
  • Jansen R, et al. Update on Photoprotection. Indian J Dermatol. 2012;57(5):335-342|https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3482794/
  • 21 CFR 352.10 Sunscreen active ingredients(米国連邦規則集)|https://www.law.cornell.edu/cfr/text/21/352.10
  • Federal Register: Amending Over-the-Counter Monograph M020: Sunscreen Drug Products for Over-the-Counter Human Use(2021年9月27日)|https://www.federalregister.gov/documents/2021/09/27/2021-20780/amending-over-the-counter-monograph-m020-sunscreen-drug-products-for-over-the-counter-human-use-over
  • Downs CA, et al. Benzophenone Accumulates over Time from the Degradation of Octocrylene in Commercial Sunscreen Products. Chem Res Toxicol. 2021;34(4):1046-1054|https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33682414/
  • Comment on Benzophenone Accumulates over Time from the Degradation of Octocrylene in Commercial Sunscreen Products. Chem Res Toxicol. 2021|https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34449191/

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。特定の効果・効能を保証したり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。肌の状態やトラブルにお悩みの場合は、皮膚科などの専門医にご相談ください。

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